私たちの身の回りには、実は多くの医療機器が存在しています。体温計や血圧計といった身近なものから、病院で使用されるMRIやCTスキャンまで、その範囲は非常に幅広いものです。
しかし、「医療機器」と聞いて、その正確な定義や分類を説明できる方は少ないのではないでしょうか。実はコンタクトレンズや絆創膏も医療機器に分類されることをご存知でしたか?
本記事では、医療機器の法的な定義から身近な具体例、分類方法まで、分かりやすく解説していきます。日常生活や仕事で医療機器と関わる機会がある方、医療機器業界に興味をお持ちの方にとって、基礎知識として役立つ内容となっています。
医療機器とは?薬機法による正式な定義
医療機器について理解するためには、まず法律上の定義を知ることが重要です。日本では「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称:薬機法)により、医療機器が明確に定義されています。

薬機法第2条第4項の定義内容
薬機法第2条第4項では、医療機器を以下のように定義しています。
「人若しくは動物の疾病の診断、治療若しくは予防に使用されること、又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、政令で定めるもの」
この定義を分かりやすく解説すると、医療機器とは以下の3つの目的のいずれかを持つ機械器具等を指します。
- 疾病の診断に使用される(例:血圧計、体温計、心電計)
- 疾病の治療・予防に使用される(例:人工呼吸器、ペースメーカー、注射器)
- 身体の構造・機能に影響を及ぼす(例:コンタクトレンズ、補聴器、義肢)
重要なポイントは、これらの目的で使用される機器であっても、すべてが医療機器に該当するわけではなく、「政令で定めるもの」に限定される点です。つまり、国が指定したものだけが正式な医療機器として扱われます。
医療機器に該当しないものの例
医療機器の定義を理解する上で、「医療機器に該当しないもの」を知ることも重要です。以下は、一見医療機器のように思えても、実際には医療機器に分類されない製品の例です。
マスク(サージカルマスクを除く) 一般的な不織布マスクや布マスクは、花粉やほこりを防ぐ目的で使用されますが、医療機器には該当しません。ただし、手術時に使用されるサージカルマスクは医療機器として分類されます。
トレーニング機器 ランニングマシンやダンベルなどのフィットネス機器は、健康増進や体力向上を目的としており、医療機器には該当しません。
アロマディフューザー リラクゼーション効果を謳うアロマ機器も、医療機器ではありません。ただし、医療目的で使用される吸入器は医療機器に分類されます。
これらの製品と医療機器の境界線は、「医療目的での使用」と「薬機法による指定」の有無にあります。
身近にある医療機器の具体例
医療機器と聞くと、病院にある大型の機械を想像しがちですが、実は私たちの日常生活にも多くの医療機器が存在しています。ここでは、身近な医療機器を場面別に紹介していきます。
家庭で使用する医療機器
多くの家庭で使用されている医療機器には、以下のようなものがあります。

体温計 最も身近な医療機器の一つです。水銀体温計から電子体温計、非接触型体温計まで、すべて医療機器として分類されています。体温という重要なバイタルサインを測定し、疾病の診断に役立つためです。
血圧計 高血圧の管理に欠かせない血圧計も医療機器です。手首式、上腕式を問わず、家庭用血圧計は管理医療機器(クラス2)に分類されています。
パルスオキシメーター 新型コロナウイルス感染症の流行により一般家庭でも普及したパルスオキシメーターは、血中酸素飽和度を測定する医療機器です。
家庭用電気マッサージ器 意外に思われるかもしれませんが、電動マッサージチェアや低周波治療器なども医療機器です。筋肉のこりをほぐし、血行を促進する効果が認められているためです。
血糖測定器 糖尿病患者が自己管理で使用する血糖測定器と測定用チップも、重要な家庭用医療機器です。
病院・診療所で使用される医療機器
医療現場では、より専門的で高度な医療機器が使用されています。

画像診断装置
- MRI(磁気共鳴画像診断装置):強力な磁場を使用して体内の詳細な画像を撮影
- CTスキャン(コンピュータ断層撮影装置):X線を使用して断層画像を撮影
- 超音波診断装置(エコー):超音波を使用して臓器や胎児の状態を観察
- X線撮影装置:骨折や肺炎などの診断に使用
生命維持管理装置
- 人工呼吸器:呼吸機能を補助・代替する装置
- 人工心肺装置:心臓手術時に心臓と肺の機能を代行
- 人工透析装置:腎臓の機能を代替
手術用機器
- 電気メス:高周波電流を使用して組織を切開・凝固
- 内視鏡:体内を観察・処置するための機器
- 手術用顕微鏡:微細な手術を行うための拡大装置
意外な医療機器(コンタクトレンズ・補聴器など)
日常的に使用しているものの中にも、医療機器として分類されているものが多数あります。

コンタクトレンズ 視力矯正用のコンタクトレンズは、高度管理医療機器(クラス3)に分類されています。目に直接装着し、視力という身体機能に影響を与えるためです。カラーコンタクトレンズ(度なし)も同様に医療機器です。
補聴器 聴力を補助する補聴器は、管理医療機器(クラス2)として分類されています。個人の聴力に合わせた調整が必要な精密機器です。
絆創膏(ばんそうこう) 一般的な絆創膏も医療機器です。傷口を保護し、治癒を促進する目的で使用されるため、一般医療機器(クラス1)に分類されています。
歯科用製品
- 入れ歯、差し歯
- 歯科用接着剤
- 歯列矯正用器具
その他の意外な医療機器
- メガネのレンズ(視力矯正用)
- 車椅子(手動・電動)
- 松葉杖
- ギプス材料
- 医療用サポーター
これらの製品が医療機器として規制される理由は、使用方法を誤ると健康被害を引き起こす可能性があるためです。そのため、製造・販売には適切な許可や届出が必要となります。