数値化がもたらす品質管理の可視化
医療機器の品質管理において、「計測できないものは管理できない」という格言があります。QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)の実効性を高めるためには、明確な品質目標を設定し、それを適切なKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)で数値化・可視化することが不可欠です。
医療機器業界では、患者安全への直接的影響から高い品質水準が求められると同時に、規制要件の遵守も必須です。抽象的な「品質向上」という概念を具体的な数値目標に落とし込むことで、組織全体が同じ方向を向いて改善活動を進めることができます。
また、品質目標とKPIを適切に設定することには、以下のような多くのメリットがあります:
- 組織のパフォーマンスの定量的評価が可能になる
- 品質課題への優先順位をつけることで有効的な組織的活動が可能となる
- 問題の早期発見とタイムリーな是正措置につながる
- 規制当局の査察や第三者審査への客観的な対応が可能になる
- 継続的改善の進捗を測定できる
- 経営層への明確な品質状況報告が容易になる
本記事では、医療機器QMSにおける効果的な品質目標の設定方法と、その達成度を測るKPIの設計・活用について、規制要件と実務の両面から解説します。
法的要件・規制背景
QMS省令における品質目標の要求事項
医療機器QMSにおける品質目標の設定は、単なる組織改善のツールではなく、法的要求事項でもあります。QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令:平成16年厚生労働省令第169号)では、次のように規定されています:
- 第12条(品質方針):品質方針が品質目標の策定及び照査に当たっての枠組みとなるべきことを規定
- 第13条(品質目標):管理監督者は、各施設において、各部門及び各階層に応じた品質目標(製品要求事項への適合のために必要な目標を含む。)が定められているようにしなければならない。また、品質目標は「その達成状況を評価しうるもの」であり、「品質方針との整合性のとれたもの」としなければならない。
- 第14条(品質マネジメントシステムの計画の策定):品質目標に適合するよう、品質マネジメントシステムの実施に当たっての計画を策定すること。
- 第18条(管理監督者照査):品質目標の変更の必要性を管理監督者照査で評価すること。
ISO 13485:2016との整合性
日本のQMS省令はISO 13485と整合しており、国際規格では以下の要求があります:
- 4.1.1:品質マネジメントシステムの確立において、品質目標を文書化すること
- 5.4.1:トップマネジメントは、品質目標が組織内の関連する機能及び階層で設定されることを確実にすること
- 5.6.1:マネジメントレビューのインプットとして品質目標の変更の必要性を評価すること
PMDAによる調査・査察のポイント
PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による調査では、品質目標について以下の点が確認されます:
- 品質目標が品質方針と整合しているか
- 目標が測定可能(数値化されている)か
- 各部門・階層に応じた目標が設定されているか
- 目標の達成状況を評価する仕組みがあるか
- 未達成の場合の是正措置が取られているか
- 管理監督者照査(マネジメントレビュー)で適切に評価されているか
現場での査察においては、単に品質目標が文書化されているだけでなく、その目標がどのように展開され、モニタリングされ、評価されているかという実運用面が重視されます。形骸化した目標管理ではなく、実効性のある取り組みが求められている点に注意が必要です。