はじめに:医療機器QMSにおける文書管理の重要性
医療機器の品質管理において、適切な文書体系の構築は単なる規制要件への対応ではなく、製品の品質と安全性を確保するための基盤となります。QMS(品質マネジメントシステム)における文書は、「言ったこと」「やるべきこと」「実際にやったこと」を確実に記録し、一貫性のある品質管理活動を支える重要な役割を果たします。
しかし、「どのような文書を、どの程度詳細に作成すべきか」という疑問を抱える担当者は少なくありません。特に、QMS体制を新たに構築する場合や、既存システムの見直しを行う場合には、必要な文書の全体像を把握することが成功への第一歩となります。
本記事では、医療機器等法(薬機法)、QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令:平成16年厚生労働省令第169号)、ISO 13485:2016の要求事項に基づいて、医療機器メーカーが整備すべき文書と記録のチェックリストを提供します。
医療機器QMSにおける文書体系と階層構造
医療機器QMSの文書体系は一般的に、以下のような階層構造で整理されます。
文書階層の基本構造
【第1階層】品質方針・品質目標・品質マニュアル
- 組織の品質に関する基本的な方針と目標
- QMSの全体的な枠組みを記述する品質マニュアル
- 何を行うのかの要求事項を明確にする
【第2階層】手順書(SOP: Standard Operating Procedure)
- QMS省令やISO 13485で要求される文書化手順
- 各プロセスの実施方法を規定
- 5W1Hを意識し、明確でわかりやすい内容とする
【第3階層】作業指示書・実施要領書・マニュアル
- 詳細な作業方法を規定
- 製品標準書、製造指図書、機器操作マニュアル、試験方法書、計画書、報告書など
【第4階層】記録・様式
- 活動の証拠となる記録
- 記録作成のためのフォーマット
文書管理の法的要件
医療機器QMSにおける文書管理の要件は、主に以下の規制・規格に規定されています:
- QMS省令(第4条~第9条):品質管理監督システムの文書化要求事項
- ISO 13485:2016(4.2項):文書化に関する要求事項
- 医薬品医療機器等法:製造販売業者等の遵守事項
これらの規制要件は単に「文書を作成すること」を求めているのではなく、文書のライフサイクル全体(作成→承認→配布→使用→改訂→廃止)を適切に管理することを要求しています。例えば、QMS省令第8条では、文書の発行前の妥当性確認、定期的なレビュー、変更・改訂の管理、最新版の利用確保、文書の識別など、文書管理の具体的な要素が規定されています。
QMS省令とISO 13485:2016の主な文書要求の対応関係
QMS省令 | ISO 13485:2016 | 要求内容 |
第6条 | 4.2.1 | 品質管理監督システム文書化の一般要求事項 |
第7条 | 4.2.2 | 品質マニュアル |
第7条の2 | 4.2.3 | 製品標準書(医療機器ファイル) |
第8条 | 4.2.4 | 文書管理 |
第9条 | 4.2.5 | 記録の管理 |
特筆すべきは、QMS省令第7条の2で規定される「製品標準書」(ISO 13485:2016では「医療機器ファイル」)の概念です。これは製品ごと、あるいは製品ファミリごとに作成する文書で、その製品の仕様、製造方法、試験方法など、製品に特化した情報を集約したものです。製品標準書は、設計開発からライフサイクル終了までの製品情報の一貫性を確保する上で重要な役割を果たします。